LivesNews 37号 『観光業は2023年に復活するのか? その動向を探る』

 

観光業は2023年に復活するのか?その動向を探る

 

コロナ禍でダメージを受けた観光産業だが、今年8~10月の3カ月は連続で景況感が改善している。観光庁も観光立国に向けた基盤強化と戦略的取り組みを打ち出すなど、観光業の盛り返しの意向を示している。また、消費者の観光へのニーズも高まっている。

そこで本稿では、盛り返しの兆しを見せている観光業の、2023年の動向について考察してみる。

 

2022年10月の国内観光業の景気動向

 

株式会社帝国データバンクが発表した国内景気動向の調査結果(※1)によると、2022年10月の景気IDは42.6ポイントと3カ月連続で改善した。その結果、新型コロナウイルスの感染拡大前の水準を上回っている。景気IDは全国2万6,752社を対象に景気判断を調査して指標化した数値だ。

景気IDが改善された背景には、新型コロナウイルスの感染者数が減少に向かっていると判断されたことと、宿泊・旅行業の観光関連の景況感改善が大きく貢献している。この観光業の景況感改善は、旅行支援の実施や水際対策の緩和が影響したと考えられる。

景況感の改善に貢献した観光業の景気IDは旅館・ホテルで前月比15.9ポイント増の53.3、旅行業は前月比17.7ポイント増の40.0、飲食店が前月比7.2ポイント増の39.0、そして道路旅客運送業が前月比11.8ポイント増の39.9といずれも目立って改善された。

 

 

<出典:株式会社帝国データバンク『TDB景気動向調査(全国)ー2022年10月調査ー』(https://www.tdb-di.com/2022/11/summary202210.pdf)p6左上のグラフ>

 

しかも、旅館・ホテル業界のうちの45%の事業者は、2022年度の増収を見込んでおり、観光業の景気回復に期待が高まっていることが伺える。

 

 

<出典:株式会社帝国データバンク『TDB景気動向調査(全国)ー2022年10月調査ー』(https://www.tdb-di.com/2022/11/summary202210.pdf)p6左下のグラフ>

 

※1 TDB景気動向オンライン『2022年10月の景気動向調査』(https://www.tdb-di.com/economic-trend-survey/ets202210.php)

 

2023年のヒット予想では国内旅行が1位

 

しかも、観光業の景気改善への期待は観光業自らの期待だけに表れているのではない。消費者の観光に対するニーズも高まっているのだ。

博報堂生活総合研究所は2022年10月26日に、「生活者が選ぶ“2023年 ヒット予想”&“2022年 ヒット実感”ランキング」を発表した。※2)

調査結果によれば、消費者は物価高騰に対する生活防衛の意識を強めながらも、楽しむことに対しては攻めの姿勢を見せているという。そのキーワードは「攻めの安近短」だ。「安近短」の3文字が示すのはそれぞれ、「安価と安心」の安、「近場」の近、「短時間」の短だ。

その結果、消費者(同調査では生活者と呼ぶ)が選んだ2023年のヒット予想では、国内旅行が総合1位となった。男女別の結果では、男性では2位で女性では1位であった。「近」ではないが同じ観光としての海外旅行は総合で12位となっている。

コロナ禍で行動制限がかかっていた反動か、観光へのニーズが高まっていることが感じられる。

 

 

<出典:博報堂生活総合研究所『 生活者が選ぶ“2023年 ヒット予想”&“2022年 ヒット実感”ランキングを発表』(https://www.hakuhodo.co.jp/uploads/2022/10/20221026.pdf)p1左下の表>

 

※2 博報堂生活総合研究所『 生活者が選ぶ“2023年 ヒット予想”&“2022年 ヒット実感”ランキングを発表』(https://www.hakuhodo.co.jp/uploads/2022/10/20221026.pdf)

 

観光立国復活とインバウンド回復を目指す観光庁

 

コロナ禍でダメージを受けた観光業を盛り返すために、観光庁も意欲を示している。同庁が8月に発表した令和5年度(2023年度)の予算概算要求(※3)では、前年度予算比1.06%増の454億5800万円だった。

また、予算概算要求の項目としては「観光立国復活に向けた基盤強化」と「インバウンド回復に向けた戦略的取組」の2本柱が打ち出されている。特にインバウンド回復のための予算は前年度比45%増を見込んでいる。

1本目の柱である「観光立国復活に向けた基盤強化」では、具体的施策ごとに以下の予算を要求している。

 

  • 新たな交流市場の創出事業:6億5000万円
  • ユニバーサルツーリズム促進事業:3000万円
  • 広域周遊観光促進のための観光地域支援事業:7億6300万円
  • 地域の資源を生かした宿泊業等の食の価値向上事業:5700万円
  • ポストコロナを見据えた受入環境整備促進事業:30億6400万円
  • 持続可能な観光推進モデル事業:1億5000万円
  • DXや事業者間連携等を通じた観光地や観光産業の付加価値向上支援:15億円
  • 観光地・観光産業再生のための人材育成・確保等事業:1億5000万円
  • 通訳ガイド制度の充実・強化:6600万円
  • 健全な民泊サービスの普及:1億1700万円
  • 観光統計の整備:6億7300万円

 

「インバウンド回復に向けた戦略的取組」では具体的施策ごとに、以下の予算を要求している。

 

  • 戦略的な訪日プロモーションの実施:93億円
  • MICE誘致の促進:1億5900万円
  • 地方における高付加価値なインバウンド観光地づくり支援事業:4億円
  • 海外教育旅行プログラムの付加価値向上支援:2000万円

 

なお、「インバウンド回復に向けた戦略的取組」の2項目目にある「MICE」とは、企業などの会議(Meeting)、企業などのインセンティブ旅行(Incentive Travel)、国際機関・団体、学会などの国際会議(Convention)、展示会などのイベント(Exhibition/Event)の頭文字で、ビジネスイベントの総称を示している。

 

※3 官公庁『令和5年度 観光庁関係 予算概算要求概要』(https://www.mlit.go.jp/kankocho/siryou/yosan/content/001498509.pdf)

 

 

日本の観光市場は2023年にパンデミック以前に戻る?

 

以上の様に、日本の観光産業は回復の兆しを見せているが、コロナ禍以前の規模まで回復するのはいつだろうか。

旅行調査の世界的な大手である米フォーカスライト社の分析(※4)によれば日本の旅行市場がコロナ禍以前の2019年レベルまで回復するのは、最も楽観的な予測では2023年とみている。特にオンライン旅行予約は2019年レベルを超えると見込んでいる。

 

<出典:Phocuswright『Two key developments in Japan’s travel market』(https://www.phocuswright.com/Travel-Research/Research-Updates/2021/two-key-developments-in-Japans-travel-market)>

 

同社が楽観的と言っているのは、ワクチン接種が広範囲で進み感染者数が激減し、まずは国内旅行の需要が急増した場合を示している。

したがって、ここまで見てきたとおり、国内の観光産業は2022年10月時点で回復の兆しを見せており、消費者のニーズの高まりや政策的な支援が進めば2023年には回復すると期待できる。

 

※4 Phocuswright『Two key developments in Japan’s travel market』(https://www.phocuswright.com/Travel-Research/Research-Updates/2021/two-key-developments-in-Japans-travel-market)

 

Copyright:地蔵重樹

 

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